(写真左:赤めがねが素敵なチュラキューブ代表の中川さん 写真右:みんな食堂を見守り運営する芥川さん)
こんにちは、コマチです。
OPH杉本町(大阪市住吉区)の102号室に2018年8月からオープンしている「杉本町みんな食堂」(以下、みんな食堂)をみなさんはご存知でしょうか?
今回は、この食堂を運営されている、特定非営利活動法人チュラキューブ(以下、チュラキューブ)の代表理事の中川さんと同法人の芥川さんにお話を伺い、みんな食堂について掘り下げていきます!
ダンチダイニングでは以前、みんな食堂への取材を行っておりますので、こちらもぜひご覧ください。
▼団地の一室に、みんながゾロゾロ… 話題の「杉本町みんな食堂」へ行ってみた
https://danchi-dining.com/sugimoto_dining/
目次
みんな食堂ができたきっかけ
公社とチュラキューブは、2017年、まったく別の企画がきっかけで知り合い、公社は団地再生事業を、チュラキューブは就労継続支援事業所(カフェ等)の運営をしていることをお互い知ることになりました。
そのつながりから、公社の団地と企業の障がい者雇用を掛け合わせて何かできないかという話が持ち上がり、翌年に生まれたのがOPH杉本町のみんな食堂でした。
現在のOPH杉本町は今でこそ高い入居率を誇っていますが、当時は多くの空室を抱えていることが大きな課題でした。
そこで、空室を利用した取り組みができないかチュラキューブと相談したところ、みんな食堂のアイデアにたどり着いたのです。
「ユニリク」の発想
突然ですが皆さん、「ユニリク」をご存じですか?
「ユニリク」とは、「ユニバーサル・リクルーティング」の略で、「企業の雇用率の達成を実現する社会貢献&地域連携の在籍型出向モデルの障がい者雇用」のこと、つまり、企業に雇われた障がいのある方が、障がい者への理解がある地域の職場へ出向するシステムのことです。
そんなこと本当にできるの?と思うかもしれませんが、実はこのユニリクの仕組みをみんな食堂では取り入れています。
オープン当初は、調理や接客を担当する障がい者スタッフのまとめ役を配置し、業務について細かい指示を出す形をとっていましたが、芥川さんは、「買い出し、調理、配膳など、最初から最後まで障がい者スタッフにやってもらって、我々はスタッフのメンタルサポートに回る方がうまくいくのではないか」と考えるようになったといいます。
ユニリクは、ある企業から持ち込まれた相談がきっかけにもなった、と中川さん。
その会社では、国が定めたルールに基づき障がい者を雇いたい気持ちがある一方で、定められた数の障がい者を雇用しながらしっかりとしたフォローを行うのが難しいという問題を抱えていました。
企業内で働くことが難しいのであれば、企業で雇われている障がいのある方にみんな食堂に出向してもらい、食堂の仕事を通して団地のコミュニティを元気にする役割を担ってもらえばいいのではないか?
「そうすることで、障害のある方は安心して長く働くことができ、企業にとってもスタッフが地域で活躍することで雇用していることが誇らしくなる。今では、障がい者スタッフを雇用した企業は、新入社員が入るたびに食堂に来て障がい者スタッフと交流したり、社内報で食堂を紹介したりと、雇用する企業・障がい者スタッフ・食堂の良い関係が生まれています。」と中川さん。
食堂の現状、他企業からの相談を組み合わせてこの「ユニリク」は生まれました。
「ユニリク」の特徴
ユニリクの大きな特徴は、障がい者の自立を促せることです。
就労継続支援などの障がい福祉サービスを利用して働いている方にとっての大きな問題点として、工賃(給料)が安く、自立した生活を送ることが難しいことが挙げられます。
その点ユニリクでは、当事者が企業に雇われた上で障がい者への十分なサポートのある職場へ出向していくため、企業内で働くよりも穏やかに勤務することができるにも関わらず、企業からの安定した給料を得ることができます。
芥川さんからは、「みんな食堂のスタッフは、安定した給料を得ることで金銭的に余裕ができるため、遊びに行くことも恋をすることもできるようになり、自立し、充実した生活を送ることができている」と教えていただきました。
障がい者雇用に悩む企業にとっても、自立を目指す障がい者にとっても、そしてスタッフを受け入れる団地にとっても嬉しい。まさに三方よしの取り組みなのです。
みんな食堂の意義
通常の接客業では不特定多数の方と接することが多く、それぞれのお客様がどういった人か詳しくわからない状態で働くことになるため、障がい者の方の心理的負担になりますが、みんな食堂では団地や近所に住む顔見知りのお客様と交流しながら地域で働くため、お客様の名前までわかります。
この安心感が、みんな食堂を長く続けられている理由ではないかと芥川さんはいいます。
上の写真は、スタッフの方にコーヒーを淹れていただいている様子。
取材中ではありますが、穏やかな時間が流れています。
スタッフの方は、おしゃべりにも参加するなど、落ち着いた様子で勤務されていました。
また、作業所などで働いていると、与えられたひとつの作業しかできず、スキルアップが難しいですが、みんな食堂では、買い物・調理・配膳など、いろいろなことをします。
実際にやってみると高いポテンシャルをお持ちの方もたくさんいらっしゃるそうで、「みんな食堂は、ポテンシャルを十分に開放できる場でもある」と芥川さん。
例えば親御さんが亡くなった後でも、経済的に自立することができ、食堂で培った買い物・調理等のスキルを活かして生きていくことができる。
この力を養えることもこの食堂の大きな意義なのです。
みんな食堂の今
口コミでどんどん地域に広まっていったことで、毎日大盛況となっているみんな食堂。
賑わう一方で、お客様を捌くことで精いっぱいになってしまった時期がありました。
「これまで来てくれていたおばあちゃんが来なくなっていることに気がつかなかったんです。」と中川さん。その方は、ご自宅で亡くなられていたそうです。
この経験から、より密に関わることができ、より気軽に来られる憩いの場所として、同団地の集会所の一角に「みんなカフェ」がオープンすることになりました。

カフェの抹茶シフォンケーキとコーヒー。セットでなんと250円!

「くつろぎのみ 無料」 がミソ。
以前の取材時は毎週金曜日のみのオープンでしたが、今ではなんと、月曜日から金曜日までオープンしています!
食堂とカフェの二刀流で、地域と密に関わる仕組みを作っています。
これからのみんな食堂
みんな食堂の定食は、この物価高の中、長らくずっと400円。(令和7年9月時点)
とても安くて、これでお店は大丈夫?と不安になりますが、400円で食べられることにこだわり、今のところこの値段を崩すつもりはないとのこと。

取材日の定食。ほっこりやさしい味でとてもおいしかったです!

メニューは日替わりで、同じメニューが出たことはないそうです。すごい…。
代わりに、みんな食堂で過ごした時間に400円以上の価値を感じたら、キャッシュレス決済のシステムを使って任意の額を送金してもらう仕組みを作ることを検討されているそうです。
この食堂・カフェを応援したいという声は以前からもあったそうで、この送金の仕組みがあればその気持ちにも応えることができますし、そのお金を食材等に充てれば、おいしいメニューを提供し続けることもできる、一石二鳥の仕組みですね。
障がい者の方があたたかいつながりの中で自分らしく働け、自立を目指せるこの取り組み。
これからの食堂・カフェにも期待したいですね!
中川さん、芥川さん、貴重なお話をありがとうございました!
〇杉本町みんな食堂・みんなカフェ
場所:⼤阪市住吉区遠⾥⼩野3丁⽬10-11 OPH杉本町102号室 (カフェ:集会所)
営業日時:毎週月・水・金 12~14時
(カフェ:毎週月・水・金 12~15時、火・木 12時~14時)
アクセス:JR阪和線「杉本町」駅 徒歩約5分
※営業状況はInstagram(@sugimotocho_minna_shokudo)等でご確認ください。
〇特定非営利活動法人チュラキューブ
2012年設立。人口減少社会の未来の中で次々に生まれる社会の課題・産業の課題を解決するため、そして、社会課題を「自分ごと」に感じられるように、『未来を伝える活動』、『ともに創る活動』の2つの取り組みに力を尽くす。
講義やワークショップは500回以上、ソーシャルビジネスでは、「農業×イタリア野菜」「農業×高齢者福祉施設」「伝統工芸×障がい者福祉」「スーパーマーケット×こども食堂×障がい者福祉」「高齢者団地×障がい者福祉×孤食支援食堂」「複合商業施設×食育」など、ジャンルを超えたさまざまな「ソーシャルビジネスのかけ算」をプロデュースしている。