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by okazaki

団地の足音、どこまで届いている? ~騒音実験から見えた“静かな暮らし”へのヒント~

「上の階の足音が気になる」「夜遅くまで子どもが走り回っていて眠れない」——。団地にお住まいの方から、そんなお悩みを耳にする機会は少なくありません。特に築年数が経過した集合住宅では、建築当時の基準では遮音性が不十分な場合もあり、生活音の伝わりやすさが課題として浮かび上がっています。

一方で、音に対する感じ方は人それぞれ。ある人にとっては「気にならない」レベルの音でも、別の人にとっては「我慢できない」ほどに不快に感じることもあります。音の問題は、数値だけでは語りきれない“感覚のズレ”を伴うがゆえに、ご近所トラブルに発展しやすいのです。

では、そうした生活音にどう向き合えばよいのでしょうか?

今回は、大阪府堺市の泉北ニュータウン内の茶山台団地にて、空き部屋を活用した騒音実験を行いました。日常的な動作によって生じる「足音」がどの程度階下に響くのか? そして簡単な対策にどのような効果があるのか? 実験の様子とあわせて、団地で“静かに心地よく暮らす”ためのヒントをご紹介します。

実験の舞台:築50年超の茶山台団地

実験を行ったのは、昭和40年代に建設された茶山台団地の3階と4階の空き住戸。50年以上の歴史を持つこの団地では、コンクリート床の上にクッション性のある床材(クッションフロア)を直接貼り付けており、現代の新築マンションのような二重床・防振構造にはなっていません。まさに「音が伝わりやすい条件がそろった環境」といえるでしょう。

今回の実験では、茶山台団地にお住まいの公社広報モニターMさんに協力いただき、以下の手順で進めました。

1.上階(4階)で「歩く」「ジャンプする」などの日常的な動作を実施

2.下階(3階)では、スマートフォンの騒音計アプリを使用し、dB(デシベル)を記録

3.次に、上階に市販の防音ジョイントマットを敷き、同様の動作を実施

4.再度、下階で音を測定して数値を比較

この実験を通して、対策の有無によって生活音がどれほど変化するかを検証しました。

実験にご協力いただいたMさんには、以前にもダンチダイニングにご登場いただき、お住まいの茶山台団地の魅力についてお話していただいています。

「泉北ニュータウン茶山台団地をぐるっと一周ツアー! ~様々な取り組みをレポート~(中編)」https://danchi-dining.com/chayamatour2/

「泉北ニュータウン茶山台団地をぐるっと一周ツアー! ~様々な取り組みをレポート~(後編)」

https://danchi-dining.com/chayamatour3/

ご自身も小さなお子様がおられるので騒音には気を遣っているとのことで、今回は騒音実験にご参加いただきました。

dB(デシベル)って何? 音の大きさを数字で見る

本実験では音の大きさを「デシベル(dB)」という単位で測定しました。

このdBとは、音の大きさを数値で表す単位で、人間の耳が感じる音の強さに対応したものです。

以下に、身近な音とその目安を表にまとめました。

 

dBは対数的な単位のため、10dBの違いで音のエネルギーは約10倍にもなります。つまり、ほんの10dBの差が、体感では「倍うるさく」感じられる場合もあるのです。

実験結果①:対策なし(52.1dB)

まず、床に何も敷いていない状態でスリッパで歩いたり、軽くジャンプしてもらいました。そのときの下階での測定値は52.1dB。これは、通常の会話やテレビの音に相当するレベルで、下階からは「どこから音がしているか分からないが、全体が響いている」という感覚が報告されました。

 

実験結果②:防音ジョイントマット1枚(44.3dB)

次に、防音ジョイントマットを1枚敷いた状態で同じ動作を行うと、数値は44.3dBに低下。「ドンッ」という衝撃音が和らぎ、天井や壁への響きも軽減されたと感じられました。これは「静かな住宅地」に近いレベルです。

 

実験結果③:防音ジョイントマット2枚(33.3dB)

さらにもう1枚追加して、2枚重ねで測定したところ、音は33.3dBまで減少。これは図書館の中のような静けさに相当し、階下にいたスタッフからは「ほとんど音を感じなかった」という感想がありました。

防音マットの厚みや材質にもよりますが、2枚敷くだけで約19dBもの騒音軽減が得られたことは、非常に実用的な発見です。

続いて今度は、広報モニターさんに下階へ移動していただき、上階からの衝撃音を体感していただきました。

やはり、防音ジョイントマットの有無や枚数による衝撃音の差は大きく、防音ジョイントマットの効果を実感していただけたようです。

団地で静かに暮らすために

今回の実験から明らかになったのは、「生活音はちょっとした対策で驚くほど軽減できる」という事実です。特別な工事をせずとも、ホームセンターやネットで入手可能な防音ジョイントマットを敷くだけで、階下への配慮が形になるのです。

特に、小さなお子様がいるご家庭では、日々の動きや遊びの中で足音がどうしても響きがちになります。そんなとき、近隣にお住まいの皆さまへの配慮として、静かな暮らしを意識することが、安心と信頼につながる第一歩になるのではないでしょうか。今回の実験で用いた防音ジョイントマットは、比較的安価で設置も簡単な製品です。しかし、防音対策にはさまざまな選択肢があります。例えば、厚手のコルク素材やEVA樹脂を使用した製品は衝撃吸収力に優れており、足音の「ドンッ」という低音の伝播を抑えるのに効果的です。

最近では、リモートワークや夜勤シフトの増加など、生活リズムの多様化が進んでいます。同じ建物内でも「日中に眠りたい人」と「夜に活動する人」が混在していることも珍しくありません。そのような状況だからこそ、互いに「見えない生活音」への理解を深め合うことが、より良い暮らしに繋がるのではないでしょうか。

団地は、壁一枚・床一枚で隣人とつながっている空間。だからこそ、少しの工夫や知識が、生活の質を大きく左右します。

少しの気づかいや思いやりで、静かに心地よく暮らしていきたいものですね。